【第39回 洋書の話(本屋の仕事パート2)】事務 宮崎秀男先生 | 東明館中学校・高等学校

◆教員リレーコラム◆

第39回は・・・宮崎秀男先生(事務)

お題『洋書の話(本屋の仕事パート2)』

 

 

 4、50年前、久留米の本屋に勤める前、京都で、洋書を扱うアルバイトをしていたことがある。京都大学の時計台のある本部の建物の地下に、広々とした書籍売り場があり(大学生協)、その裏手に、洋書だけを置いているコーナーがある。ペンギンブックスなどのペーパーバックが主で、新学期の頃は、教授推薦本(教科書は別に特設コーナーがある)やオックスフォードのCOD、ウエブスターのアメリカンヘリテージ、ロングマンのコンテンポラリー、ドイツ語は「DUDEN」、フランス語は、「プチ・ロワイヤル」といった辞典を置いている。

 英語の辞典で一番売れるのが、COD(Concise Oxford English Dictionary)である。CODには当時、英国で作られたものと、日本で作られたものがある。製本の技術は圧倒的に日本で作られたものが美しい。だが売れるのは英国製である。日本製には、日本での販売元の日本語が入っている。これがだめらしい。おまけに箱入りのものまである。英国製で箱入りというのは見たことがない。箱入りの本というのは、日本独特の文化らしい。いずれにせよネイビーブルーの表紙が、かっこいい。

 丸善OBの嘱託の老人がおられ、その手伝いである。洋書コーナーの入口に長机が置かれ、そこでの店番。老人は戦時中、英語ができるということで、特務機関に所属されておられた。仕事は洋書の注文に来る人に、概略の値段と入荷の予定を知らせることである。注文書はインボイスInvoice、といい、出版社(Publisher)、著者(Author)、書名(Title)をタイプライターで打ち込む。Royalというメーカーのもので鉄の塊のように重い。

 注意しなければならないのは、ハードカバーか、ペーパー版か、米英の専門書は、両方出していることが多い。さらに2版であれば2nd・ed、3版であれば、3rd・ed、と打つ。こういうのもある。ホワイトヘッドとラッセルの『プリンキピア マテマテイカ』という三巻本の記号論理学の大著である。世界で六人しか理解できないだろうという曰くつきの本である。著者のアルフレッド・ノース・ホワイトヘッドとバートランド・ラッセル、それにヴィトゲンシュタインは理解できるだろうがという。あと三人は不明。その縮約版というのがある。アブリッヂド エデイション(abridged edition)といい、長大な研究書の主な部分を抜き書き編集したものである。(世界で六人しか理解出来ないという本に挑戦してみるのも面白いかもしれないが・・・私はパス) 

 余談―まだ読みやすいのは、同じラッセルの『西洋哲学史-History of Western Philosophy』で、彦根東出身の友人は高校二年の時にこれを原書で読破したという。一方ある年配の知人はこれを、哲学講談-(哲学を面白おかしくかみ砕いたもの)だという。どちらにせよ、読み応えのある本である。

 こうしたいくつかの約束事を覚えれば、仕事ができる気分になる。

 値段は『ブックス イン プリント』というアメリカ版、イギリス版の英語圏の『書籍総目録』のようなものがあり、発行所、著者、タイトル、発行年・値段(ドル・ポンド)が書かれている。これは毎年発行されるもので、本店、各支店には新しいものが、われわれの所にはそのお下がりの一年前のものが廻ってくる。フランス語版のも廻って来るが、当時は五年前のがあった。一度それで気の毒なことがあった。ベトナムの留学生がそのカタログ(フランス語版)を参考にして仏語の本を注文したのだが、2000円台の本が入荷した時は8000円台になっていた。この間のやりとりは、苦い思いがある。ベトナム人留学生に悪いことをした、と。(続く)

 

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