【第27回 本屋の仕事】事務 宮崎秀男先生② | 東明館中学校・高等学校

◆教員リレーコラム◆

第27回の担当は・・・宮崎秀男先生(事務)②

お題『本屋の仕事

 

 

 

 昔本屋にいた。
 朝の荷受け、書籍がダンボール箱毎日20箱から30箱、雑誌も50梱包ほどである。書籍は月末に新館の発売が多いので、その時期は50箱ぐらいなる時がある。雑誌は発売日による。女性の方ならご存知だろうが、『別冊マーガレット』の発売日はレジは戦争状態になる。私の記憶では一番多い時で600冊入荷していた。『別マ』だけで75梱包である。(一梱包8冊)それに『別冊少女フレンド』『少女コミック』がその何分の一かは入る。西鉄久留米駅の4階にあったので、女子中学生、高校生、下校後の電車バスが着くたびにレジに行列ができる。さらに勤め帰りのお姉さんたち。飛ぶように売れる日である。『りぼん』『なかよし』『ちゃお』、小学生だけのマンガ雑誌ではない。働くお姉さんも買っていくのである。本屋に勤めて初めて知る。これはコミックコーナー。
 それを横目に一般書―文芸・人文―担当は毎日こつこつ店出しである。時に爆発的に売れる本がでることがある。『サラダ記念日』や『ノルウェイの森』。『サラダ』は新刊で入荷した時パラパラ拾い読みし、今でいうキュンキュンする短歌がならんでいる。女性に限らず男が読んでも来るのである。注文を掛けたが時すでに遅し。発売日が一日早い都内の書店から出版社へ注文が殺到し、地方の書店は再版のまた再版を待つばかりである。
 『ノルウェイの森』はロングになった。緑と赤の表紙が印象的でその年のクリスマス時期、店の一等地は『ノルウェイの森』が占めた。30年前の頃である。

 店に本を並べ終わると裏の事務所でデスクワーク。毎日送られてくる出版社からの宣伝物。大概目を通す。ほかに取次(出版社と書店を取り次ぐ卸屋、書籍や雑誌の配本数を決めるのもここである)からの「トーハン週報」というのがある。新刊案内と先週の売れ行きベストセラーのリスト(日本全国の書店での売上、50位くらいまで)がくっついてくる。一般書、文庫、新書、コミックと分類されている。
 さらに、毎月出版社から送られてくるPR誌がある。新潮社の『波』、岩波文庫の『図書』、筑摩書房の『ちくま』、文藝春秋の『本の話』である。ほかに講談社や集英社からも来るが・・・。年末になると読者アンケートの特集号のみすず書房の『みすず』である。
 これらを読んでいると、どういう本が世の中に出回っているか、大体の知識を得る。お客さんから問い合わせがあった時に、今自分の店にその本があるかないか即答できる。じぶんで触って店に出しているとそれがわかる。ただ、即答できるというのが曲者で、若いころ、年配のお客さんから戦記物のある本を訊ねられた。それは店にないことを知っていた。(ああ、それはないですね)と軽く応えた。すると「貴様、調べもしないでありませんとはどういうことだ」と一喝された。軍役上がりの方のようで、(もう一度調べてきます)と丁重に詫びをし、時間をおいてその旨を伝えた。 出版社のPR誌とは別に、自分だけの情報入手先がある。『本の雑誌』という、椎名誠、沢野ひとし、目黒孝二、木村晋介、の同じ下宿に住む四人が自分の好きな本を、ワイワイ、ガヤガヤと語り合う書評雑誌である。仲間内だけだから言いたい放題。面白い雑誌が出ていると噂に聞いていたが、結局入手できたのが、創刊3号あたりからである。普通の本屋には置いていない、マニアックな書評雑誌だからだ。笑える書評雑誌といっていい。
 この四人については、椎名誠が『哀愁の街に霧が降るのだ』で、四人の下宿生活の模様を、笑いのたかがはずれるほど笑わしてくれる。特に沢野ひとし。クククと吹き出すのをこらえるのが大変なほどだ。
 後年本屋に勤めるようになって、この『本の雑誌』を置いた。20部仕入れて、ほとんど完売していた。35年前久留米に『本の雑誌』愛読者が20人はいたということだ。毎月、『本の雑誌』が入荷すると、入口の目立つ所に「本の雑誌入荷!」と書く。その日のうちに売れていく。久留米市立図書館の方も買われていた。
 『本の雑誌』でこういうことがあった。読者投稿欄に「本屋にくるとなぜかトイレにいきたくなるのはなぜだろう」と女性からの投稿であった。と、次の号から、自分もそうだ、私もそうだ、と反響があり、その理由をめぐっていろいろな説が飛び交う。椎名誠編集長は、それを、投稿者の名を冠して『青木まりこ現象』と呼ぶようになった。当時の『本の雑誌』読者ならみんな知っている。
 年末の今年のベストテンを選ぶ座談会は四人プラスα、が登場する。その順位は、ある時は成り行きで、ある時は編集長の力技、ある時は推しの鼻息の強さ、で決まる。だれも文句を言わない。その後ミステリー、SFの対談・座談会のメンバーが『このミステリーがすごい』の選評者に引き継がれる。茶木則夫、大森望といった顔ぶれである。

 新刊が入ると、だいたいこの本は、この人が買うだろうと予想できるようになる。毎日来られる喫茶店のマスターがおられたが、久留米一番街では有名な「ばんぢろ」のマスターである。この方が、毎日何冊か買っていかれた。北野町のプロレタリア文学研究家の山口守圀さん、柳川の白秋生家館長の高田さんからも何度か本を訊ねられたことがある。店で顔を合わすと一言二言、世間話。
 30年前の話である。今、皆さん鬼籍に入られた。

 

毎週金曜日更新! 次回は吉松信幸先生(理科)② お題は『漢方薬2』です。